手を繋いで
吾輩はキジトラの猫である。
名前はキジ夫だ。
生まれてこの方、飼い主さんと住むこの家を出たことはない。この家と窓から見える踏切、そしてチンチンと音をたてながら走る電車が吾輩の世界の全てだ。
別に不幸とか思ったことは一度もない。
飼い主さんは優しいし、温かい寝床と美味しいご飯があれば、大概のことは問題にならない。
もちろん、楽しいこともある。
うちの飼い主さんは仕事から帰ってくると吾輩に覆い被さり、吾輩を思っ切り吸い込むのだ。
いわゆる、猫吸いだ。
吾輩を吸い込んだ飼い主さんが顔を上げると、その顔はムフフとなり、ゆるゆるだ。
そして、吾輩に感謝するのだ、
「癒やされた〜。ありがとう。キジ夫」
飼い主さんのこの顔が見られれば、吾輩は幸せだ。飼い猫冥利につきる。
この飼い主さんは、ちょっと変なところもある。猫吸いは、仕方がないとしてなぜか分からないが、吾輩の手を掴んで喜んでいる。何が楽しいのか。
「握手。握手〜。」
なぜかいつも、手をぶんぶん振り回し、飼い主さんと手を繋いで握手なるものをさせられる。
謎の儀式だ。
もういっそ、悪魔を呼ぶと言ってもらったほうが頷ける。
こんな飼い主さんとの生活だが、割と楽しませてもらっている。飼い猫も悪くはない。
3/20/2025, 12:24:47 PM