『初めて』
君と初めて会ったのは、初夏だった。小さくてか細い鳴き声で、膝の上で震える君に触れるのさえ怖かった。
広い檻の中ではさらに小さく見えて、それでも懸命にここから出してと訴えていたね。
「みぁーっ、みぁーっ!」
檻の隙間から手を伸ばし、恐々触れた。暖かくてふわふわした手のひら。ときどき皮膚に穴をあけてしまいそうな鋭い爪が掠った。
「お外に出たいの?」
あまりに必死だったから、少しだけ・・・・・・と、檻の扉を開けた。まるで怖がる様子もなく檻から飛び出したのに、腰が引けたような歩き方で部屋の中を進んでいく。
それがおかしくて声を上げて笑った。
「ぬんきち」
名前を呼んでもまだ反応はない。どれだけ時間があれば振り向いてくれるかな?
ぬんきちとの時間は今始まったばかり、10年か20年か。この先長い時間をぬんきちと共有する。いろいろなことがあると思うけれど、この瞬間は絶対に忘れないだろう。
「うちに来てくれてありがと」
「にやぁー!」
君との出会いはきっと運命だった。出会わせてくれた神様には、感謝しかないと思う。
君と出会ってから、私の心はいつも穏やかになったよ。
おわり
5/5/2023, 10:22:15 PM