香草

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人魚の夢は黒く青い。
ぷくぷくと泡を吐き出しながら寝息を立てる。
光が水底でゆらゆらと舞う。
いつか見かけた目に刺さるような色の小さい葉。
あの日は海底の洞窟まで光が強く届き、
黒と青しか存在しなかった世界が見たことない色で輝いた。そのとき頭上でゆらめく葉に気付いたのだ。
地上はこんなに美しい色で溢れているのかしら。
持ち帰ったひとひらは暗い水底だと色褪せて見えた。
人魚は強い光に憧れた。眠りから覚め瞼を上げる。
暗い暗い水底で弱々しくゆれる光ではなく、水面に上がったときに感じた肌を刺すような痛い光。
ひれを小刻みに震わせると水面に向かった。
水と空気の境界を突き破る。空気がずっしりとのしかかり、冬の白みがかった光が人魚をつつむ。
遠い景色の向こうに影が見える。
きっとあそこに行ったら私の見たい世界があるのだろう。
でも泳いで行く勇気がなく、光と闇の境界でぷかりぷかりと浮かぶばかり。

12/3/2024, 12:46:25 PM