鐘の音
毎朝9時に鳴る、教会の鐘。高く、凛とした音をこの町に響かせる。
それが当たり前の日常。鐘を鳴らす人は日替わりで、なる回数も人によって違う。あいまいな日々だ。しかし、音。それだけは変わらない。
あの音が好きだ。無表情な音だ。だからこそ、毎日同じ音なのに感じ方が変わる。凛とした、気高く、美しい音。それが、当たり前。
鳴らない。なぜ。
今日は教会の鐘が鳴らなかった。鳴ったのだが、いつもの音ではない。全く違う。痛く、無理しているような音だった。
私は行動的なタイプだ。すぐに教会に駆けつけ、司祭さんに問いかけた。
「鐘の音かい? なにか違ったね。ああ、そういえば、鐘を管理しているウィリーさんが体調を崩したらしい。あの方も、もう若くない。少々心配でね。」
鐘の管理。そんなものがあるのか。当たり前に聞いていた音は、当たり前ではなくなるのか。
ウィリーさんにとっても、当たり前だったのかもしれない。鐘の管理は。当たり前だからって、何もしなくて良いのだろうか。私は、鐘の音に感動したのではないのか。ウィリーさんに感謝しているのだろう。私は。
「ねえ、ウィリーさんの住所を聞いても?」
8/6/2023, 8:50:48 AM