ミミッキュ

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"モンシロチョウ"

 早朝、今日は堤防をのんびり歩くコースにした。
 桜は全て散ってしまい葉が茂っているが、道の端にたんぽぽが多く咲いており、綺麗な黄色が堤防を彩っている。河川敷には白詰草も咲いていて、周りの草の緑と黄色と白のコントラストに、まだまだ春である事を感じる。
 とりあえず一番近くの橋までゆっくり歩こうと歩みを進めていると、急にハナが立ち止まった。歩みを止めてハナの視線を辿る。
 数メートル先に咲くたんぽぽの上を、白く小さなものがヒラヒラと舞っていた。
 数秒観察して、それが何なのか認識する。
「紋白蝶か」
 大きさは五百円硬貨程だろうか。程なくして位置を低くし、たんぽぽの上に留まり巻いていたストローを伸ばしてたんぽぽの蜜を吸い始めた。
 紋白蝶の食事の邪魔をしないよう、ハナを抱き上げる。
「久しぶりに見るなぁ」
 最後に見たのはいつ頃だろう。
 小学生の時まではよく見ていた。それ以降は、視界の端に見かける程度で、ハッキリと認識していなかった気がする。成人してからは、めっきり見なくなった。
──蝶を見て懐かしさに浸るなんて、俺も結構大人になったんだなぁ……。
 感傷に浸っていると、食事を終えたのかストローを巻き尺のように巻き、羽をはためかせて舞い上がって別の花の場所に向かった。
 紋白蝶を見送って、ハナを地面に下ろす。
「春がいっぱいだな」
「みゃあん」
 五月に入って一週間以上経つのに、未だに春の気配を感じる。
 まだまだ暖かくなる。もう少ししたら、菜の花が咲いてくる頃だろう。
「行くか」
「みゃん」
 足を前に出し、歩みを再開する。
 早朝の春の、心地良いそよ風が頬を撫でた。

5/10/2024, 12:39:43 PM