薄墨

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コンクリートの道を進む。
都会の道は快適だけど、すぐ乾いてしまう。
コンクリートの道には、雨は染み込まない。

細い雨の中、傘をさして歩きながら、足元を見た。
足元は相変わらずコンクリートで、しっかりと硬い。
田舎のように、足が水を含んだぬかるみに沈んだり、靴に濡れた土が絡んだりはしない。
便利だ。
文明の勝利だ。

それが何だか、味気ない。

ビルは、雨に打ち付けられても平然と突っ立っていて、信号機は風に吹かれても揺らぎもしない。

雨なのに、空気以外はみんな乾いているような気がする。

自分の心とどっちが乾いているのだろうか。
雨に濡れ、それでも瑞々しさを取り戻すでもなく、冷えるのを気にするでもなく、立ち尽くしている街並みを見つめながらそう思う。
確かに、私の心は乾いているのだ。
この雨の街と同じように。

何をしても楽しくない。
何を見ても悲しくない。
ただ、淡々と毎日を過ごすだけ。

自分で対策を考えてみても、そんな気持ちを周りに相談してみても、効果のある対策はひとつもなかった。
私は相変わらず、無道徳で、無感動な人間だった。

さっき話した精神科の先生は言った。
「誰かと、心と心の繋がりを持ちましょう」と。
しかし、雨すら染み込まない乾いた心と、通じられる心などあるのだろうか。

潤いのある心がなんたるか分からない心。
そんな心は、心と心で話すことが、できるのだろうか。

雨が激しく降り出した。
傘に強く打ち付ける。
雨粒は、街には染み込まない。
コンクリートはぬかるみにはならず、ビルはいつもと同じ絶壁で、信号機は動き続ける。

街は、雨を吸い込まない。

12/12/2024, 10:16:24 PM