『理想のあなた、理想のわたし』
「…よ」
目の前の彼がゆるりと手を挙げる。私も同じように手を挙げて応えた。
2人で並んで柵に寄りかかる。人一人分ぐらいの微妙な距離を取って。当たり前だ。元カレとそんなくっつけられるほど私はさっぱりしていない。
私も彼も何も言わない。2人の間に気まづい空気が流れる。そんな空気を誤魔化そうと、ポケットからタバコを取り出した。ライターはどこかとポケットを探ると、隣からカチッという音が聞こえた。そちらに目線を移すと彼がライターを構えていた。「…ん」と火を灯す彼の口には、いつの間にか火のついたタバコが咥えられていた。こいついつの間に……。
何時まで彼を待たせる訳にもいかないので、有難く火を頂戴する。先端に火がついたのを確認し、息を吸う。口に入った苦味をそのまますぐに吐き出した。
「…タバコ、吸うようになったんだな」
「…ん、まぁね」
そこで会話が途切れる。また微妙な空気が流れ始めた。ちらりと彼を盗み見すると、何かを考えるように目を伏せていた。こいつほんとに顔はいいんだから……。
彼の目がこちらに向く。煙を吐き出した彼の口がゆっくりと動いた。
「…しわが増えたな、お互い」
「…プッ!アハハハハ!!何考えてんのかなって思ったら、そんなこと考えてたの!?」
笑いが止まらない私に、最初はむくれていた彼も次第に声を上げて笑いだした。
本当にこいつは変わらない。
その事実に口角が上がった。
【理想のあなた】
5/20/2026, 2:57:33 PM