ひとひら
***
4月。毎年この時期になるとえも言われぬワクワク感が胸を満たす。新しい出会いがあろうとなかろうとに関わらずだ。ふと春の匂いに誘われて窓を開けてみる。母校でもある近所の小学校は桜が満開だ。ちょうど子供たちが登校しているところだった。みなが弾ける笑顔をしている。その様子を見て懐かしくなったか、あるいは春の匂いの仕業か、ともかく、私は昔よく遊んだ公園に足を運んでみることを思いたち、弾かれるように家を出た。
公園は案外近かった。私が大きくなったからだろう。もう20年ぶりくらいだ。桜の木の下にあるブランコに腰をかける。ブランコも20年ぶりだ。鎖が少し窮屈な気がした。
公園に来たは良いものの、何もすることがない。かと言ってすぐ帰るのも惜しい気がして、しばらくブランコに揺られていると、女性が1人公園に入ってきた。見覚えのある顔だった。初恋の相手だった。面影がある。しばらく連絡をとっていなかったどころか連絡先すら知らないし、そもそも正確な名前さえ思い出せない。ただ、かつての思い出は鮮明に残っている。この公園の、まさに今座っているブランコで遊んだことも。彼女も春の匂いに誘われたか、あるいは懐かしさを感じたのだろうか。どちらでも良いように思われるが、なぜだか私にとっては重要なことのように感じた。
向こうもこちらに気づいたようだ。彼女もどうやら同じような考えらしく、こちらの様子をちらちらと伺ってくる。ややあって、こちらに向かって歩いてきた。
春の風が、桜の花をひとひら私の肩に落とした。
何かが始まる合図のような気がした。
4/13/2025, 3:19:10 PM