美醜の観点から見れば、彼女は自身の顔を美しいと感じる。下地を塗り、ファンデーションをのせ、肌に色を足した後の顔は、もっと美しいと感じる。鏡の中の自分と目が合えばその顔は上の中であるように感じ、芸能人とはいかぬものの、高校時代クラスにいたマドンナとも引けを取らぬような、美しさがあると思う。
しかしひとたびその姿で外に出て、人の目を感じると、彼女は萎縮しきってしまうのだった。
鏡を通さぬせいでわからない自身の顔が幾多に変形し、変異し、理解を超えた形をつくるのだ。それはあまりにも醜悪なのではないだろうか?彼女はそう考えて、いつも街を歩く。
人間というものは、全てそのような危惧を背負い、生きるものなのだろうか?鏡という自身を映すものがなければ、何一つ自身を見つめ直せない欠けた生き物。
朝塗ったリップは腫れた唇のように見えていないだろうか?アイシャドウをなった瞼はアザのように見えてないだろうか?チークも、肌が汚れているように見えていないだろうか?
それは彼女の心をいつでも締め付けるのだけれど、それでも彼女は鏡を見ると安堵し、自信を美しいと感じるのだ。そうして明日はどうなってしまうのかと怯えに震える。
そうして翌る日、彼女はまた鏡を見て——言葉を失う。そこに映るのは奇形だった。頭は不自然に膨らみ、目は腫れて眼球はほとんど隠れ、唇は馬鹿みたいに大きくて分厚く気持ちが悪かった。
バケモノだ。彼女はそう思う。そうしてそれが自身の顔だと気づき、絶叫しながら近くにあったコップで鏡を叩き割ってしまった。ああ、お気に入りのコップにはヒビが入って、ずっと使っていた鏡はもうすでに直すこともできない。
割れた鏡にすら薄ら汚れな醜異なバケモノが映っているのを見て、彼女は、もう何を信じれば良いのかわからなくなった。
8/19/2023, 12:43:57 PM