不整脈

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扇風機の音が、時間をねじ曲げる。
まぶたの裏に焼きつく白い空。
わたしはここにいながら、
確かにどこかにいた。

畳の目の間に落ちた光が、
波紋のように揺れている。
一秒ごとに遠ざかる現実の縁で、
誰かが笑った気がした。

なぜか、声が聞こえない。
けれど唇の動きが、
昔くれた言葉をなぞってる気がした。

気のせいならいい。
でも、気のせいじゃなければもっといい。

扇風機の風が頬を撫でるたび、
揺れるカーテンが
まだ名もない風景を運んできた。

ふいに立ち上がって、
声をかけようとした瞬間。
世界はカシャ、と閉じた。

扇風機の音。
遠くの踏切。
目が覚めた。
私は、ここにいた。
たぶん、ずっとここにいたのだろう。

でも、あの白い光のなかで
私は確かに笑っていた。

たとえそれが夢だとしても、
真昼の、眩しすぎる夢だったとしても。

7/16/2025, 2:17:22 PM