菜な子

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「行ってくる」
その言葉に
「生きて帰って来る、の行ってくる、ですからね」
と返すそいつの。
己の愛以上に、
この上ない愛を注いでくれるそいつの。

力無く振られた白い手の残像が、
無理に笑う中途半端な口角の上がり方が、
元気に伸びた腕になることを。
恋人と死別するかもしれない暫しの別れに、
手を振る必要などない世界を。
あいつが何の心配もなく、
柔らかく笑むことのできる世界を。

否、そんな己の自分勝手な願いより、
笑顔より、手より、あいつの心からの幸せを。

たった一つの希望として、俺は剣を振るおう。
光を受けた剣先は、己に仕舞いきれなかった希望。

俺の作る、
あいつの幸せを願って。
その幸せの隣りに、俺がいられるなら僥倖だ。
あいつの跳ねるような足取りを。
色とりどりの花に心躍らす姿を。
自らが愛し、愛される人に囲まれて、
笑顔で暮らすことを。
あいつを取り巻く全ての幸せを、
これでもかと言う程に願った全てが
光として燦然と輝いている。

あぁ、駄目だ。
あいつのそばにいて、
誰が希望をたった一つに絞れようか。

溢れ出す希望は、全てあいつの元へと集束する。
希望を纏った剣先は、今日も血肉を散らす。

いつかきっと訪れる、
あいつの幸せへの紅い道を作るために。





「たった一つの希望」

3/2/2024, 10:08:01 AM