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朝霧のたなびくころ。あん雲はたてこみ、からすはすずめをつつく。家のまむかいには道路をはさんでおり、午前4時にかけて活発にはしりゆく車輪を、透ける硝子ごしに仄白くあかるんだ背景とあわさり、ながめた。銀木犀の群生地とは、はなれてはいるが、清涼とあまみをふくませた、こうごうしくない香りの美容液を、てのひらの甲へしみこませる。窓のほうをみやれば、花瓶に挿したつぼみの仔はいっこうに咲かずじまいと、起床のたびに入れ替える所作に、肩のちからをほんのすこしゆるめた。乳白のつくえに、ひゅる、と尾をまるめた糸がちらばっていて、換気をわすれていたことに気づく。はたらき、えみ、去り、のぼり、くだる、くりかえし。窮屈だとはおもわない。けれどふと、ふところにしのばせた傷みに、うずく。よみきれておらず、つまれるばかりの本のやまへ、ゆびを滑らせる。みじかにありながらふれられない、ままならなさ。ふかくふかく、呼吸を肺へとうながす。音楽、文学、鑑賞、いろどるさまざまな斑紋はゆたかさを与えるのにたいして、こころはうつろうままに、癒せずにいた。すんでのところに、喉ぼとけに骨がささり、いえずにいる。それはあなたとて、おなじくあじわうにがみなのだと、いい聞かせて。15°Cのひややかさに、おもわず毛布のぬくもりへかえりたくなる。わずかな葛藤をへて、衣服に、袖にとおしてゆく。きょうは、たびにでる。かぜを、しんせんなくうきを感じていたかった。きっと、こごえない。暁のみえないときのこと。

11/1/2025, 11:16:06 PM