「本当にごめん」
良く言えばおおらか、悪く言えば呑気な彼には珍しく沈痛な面持ちでそう言葉を溢した。
一度は惚れ、そして寄り添った相手。その痛ましさも感じさせる弱りきった表情に私は小さく笑みを返す。
対面してから真顔を貫いていた私の表情が緩んだからだろう。絞首台を免れた罪人のように微かに安堵の息を吐きながら、彼は私の名前を呼んだ。そして始まりそうになった言い訳の羅列を遮るように口を開く。
「もう貴方からの謝罪も弁明も結構です。ただ、慰謝料の支払いだけをお願いします」
突きつけた額に顔を青褪めさせたかと思うと、同席する弁護士の事など忘れたのかこちらへの罵詈雑言を吐き出しはじめた草臥れた哀れな男の姿に、自分は男を見る目がないのだろうかと内心で呟いた。
/言葉はいらない、ただ・・・
8/29/2023, 12:25:14 PM