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空白

 何も書かれていない、美しい装丁の本を持っている。
子供のころ輸入雑貨店で見つけて、どうしても欲しくてお年玉で買ったものだ。
 いつかこの雪のようにまっ白いページに海のような青いインクの万年筆で、詩やお話や感じたことを書こうと思った。
私だけの本!

 あれから数十年、もったいなくて何にも書けないまま背表紙は日焼けしてしまった。
でも空白のページを開けば、何度も何度も空想で綴った私の歴史が閉じ込められている。
 今も時々手に取って何を書こうか思案するけれど、もはやこのままで良い気もする。


9/14/2025, 12:51:01 AM