かたいなか

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「『秋』はねぇ、先月2回遭遇してるのよ。22日付近の『秋恋』と、26日あたりの『秋🍁』と」
3度目の秋ネタである。某所在住物書きは己の過去投稿分を辿った。 「秋」は「秋に行われる神社での神事&祭」、「秋恋」は「ちゅら恋紅」なるサツマイモで作ったスイーツのハナシを書いたらしい。

ところで。 去年は「4度目の秋」があった。
「秋を連想させる」というだけならもうひとつだ。
「下手すれば今年も秋のハナシをあと2回、書く可能性があるワケよな……」
ため息ひとつ吐いて、物書きは外を見る。東京は午後から雨だという。

――――――

「秋晴れ」は、乾燥した移動性低気圧が云々で、月見にもよく、等圧線の広さにより風が穏やか。
取り敢えず本棚の資料を漁ってみたものの、
「要するに秋晴れの夜空で月見」のネタが書けるのだ、程度しかエモいハナシは思い浮かばない物書き。今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。丑三つ時、すなわち日付が変わって長針が2周し終えて間もなくの真夜中に、
花咲き風吹き渡る雪国の出身者、名前を藤森というのですが、その藤森が自宅近くの稲荷神社付近で、
昔ながらの手押し屋台が赤ちょうちん出して、おでん屋の営業などしているのを見つけました。

「屋台?」

東京で屋台なんて、珍しい。藤森は首を傾けます。
今じゃコンビニの氾濫に治安の悪化、後継者の不足等々で、手押し屋台のおでん屋なんて、数えるくらいしか残っていないのに。
その屋台が、藤森の目の前に居るのです。

「明日の朝は、おでんにするか」
丁度良い。東京も少しだけ秋の気配。朝夕が微妙かつ地味に涼しくなってきたところです。
おでんをテイクアウトして、具をおかずに、汁の一部を少し薄めてお吸い物にするのも良いでしょう。
あるいは深夜の今頃でも、糖質ほぼゼロなこんにゃく程度なら、食べたってインスリンも膵臓も、脂肪細胞も目をつぶってくれるかもしれません。

秋晴れの夜空に冷えた空気の中、湯気たつ温かいおでんを屋外で食べるなんて、どれほど贅沢な秋の寒暖差つ有効活用でしょう。

「こん、」
こんばんは。 念のために電子マネーやスマホの残高だけでなく、マネークリップやコインケースの中の現金も確認した藤森。のれんの中に入ります。
「……コン……?」
声を詰まらせたのは、屋台がバチクソニッチなおでんも網羅していたから、ではありません。 
「丑三つ時」です。
屋台の椅子に、大人のホンドギツネのオスと大人の2本尻尾なイエネコのオスがお座りして、
ホンドギツネの方など、前足で器用におちょこを持ち、ベロンベロンに酔っ払っておったのです。

「あのね。私も、漢方医をやって長いけどね。
最近は『ネットで調べたこの薬だけ処方してください』とか『ネットではこう言われてるので』とか言う『博識な』患者さんが増えてきてね……」
ホンドギツネ、言葉まで喋っております。
ぽん、ぽん。2本尻尾のイエネコが、ホンドギツネの肩を優しく、同情と共感的に叩きました。

「おや。いらっしゃい」
屋台の店主さん、何も不思議や怪異は無いとばかりに、正気なトーンで藤森に挨拶。
かけつけ一杯、ひとまずノンアルの日本酒です。
よく見たら店主さん、優しいおめめがヘビの瞳孔してますね。ヘビですか、そうですか。

「ええと、テイクアウトで」
ホンドギツネが勘違いして、藤森に「迎えに来てくれたのかい?それとも一緒に飲むのかい?」と絡んでくるのも見ないふり、気づいてないふり。
「大根とウィンナー巻きと、角こんに牛すじと厚揚げ。それからオススメを何か2個くらい」
コレで、お願いします。 藤森、瞬時にざっくり価格を計算して、余裕ある額を店主に渡しました。
「おつりは、けっこうです」

店主からおでんを貰い、迅速に屋台から離れた藤森。秋晴れの丑三つ時、月のよく見える夜道を、
自分のアパートまで、足早に歩きました。
それにしても不思議な出来事でした。
夢かしら?参加型のフラッシュモブかしら……?

…――「少なくとも、おでんは夢じゃないらしい」
少しひんやりな朝、ベッドから起き上がった藤森。
外は曇天。秋晴れとはかけ離れた空です。
冷蔵庫を見るとたしかにおでんが、昨日買った大根やら牛すじやらがありましたので、
おでんの汁でお吸い物をつくり、三つ葉を散らし、
簡単な朝ごはんを、テーブルに並べました。
「美味い」
味のよくしみた大根を舌にのせると、懐かしく、なにより確実に白米や酒に合う味をしていました。

惜しいことをした。藤森は思いました。
だって、あの不思議な不思議な屋台から昨晩逃げてさえいなければ、この絶品なおでんを、秋晴れの月夜の下で堪能することができたのでした。
おしまい、おしまい。

10/19/2024, 3:20:51 AM