いぐあな

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300字小説

桜空の平穏

 今年も街を薄紅色の桜が彩る。休日の午後、夫と共に花見散歩と洒落込む。大きな笠のような公園の桜。川に伸びる枝ぶりの堤防の桜。青い空を背景に去年と同じく美しく咲いていた。
「毎年、同じね」
「ああ。それがいい。それでいいんだ」
 今年、見ることの出来た桜を来年、見られる保証はない。桜は毎年、美しく咲いても、自分達がそれをこんなふうに穏やかに受け入れられなくなっているかもしれない。
「人の人生の中で憂いのない平穏な時間というのは、そう有り得ることではないから」
 そよ風にひらひらと花びらが舞う。
「……だから、もう少し花見を続けても良いかな?」
「……ええ」
 この平穏が少しでも長く続くことを祈って、私は桜空を見上げた。

お題「それでいい」

4/4/2024, 11:56:41 AM