海月 時

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『ねぇ、教えてよ。』
そう言った彼女の目には、絶望が映っていた。

『元気してた?もうすっかり大人だね。』
死んだはずの彼女が、俺の前に現れた。そして、何事も無かったように、笑っていた。
「夢、?」
『違うよ。現実だよ。』
嘘だろ。夢であってくれよ。まぁ、夢であってもこんな悪夢、最悪だけど。

彼女は、高校の秋頃。自室で首を吊って死んだ。理由は、詳しくは分からない。只分かるのは、彼女は生前虐めを受けていた事だけ。あれから数年は経った今、昔と変わらぬ姿の彼女。それは美しくもあり、恐ろしくもあった。そして、確信した。彼女は今、過去に囚われているのだと。

「何でここに?」
『質問しに来たんだよ。大人になった君に。』
彼女は、真剣な表情になった。
『形のないものに、価値ってあるの?』
「どういう事?」
『学校とかってさ、思いやりの心を大事にしろって言うじゃん。でもさ、目に見えない、形のないそれをどうしたら良いのかなって。』
数年ぶりに会ったと思ったら、そんな事か。でもきっとこれは、彼女が受けた虐めと関わっているのだろう。
『ねぇ、教えてよ。』
「価値なんてない。0が何をしても0のように、ないものは何しても変わらない。」
『じゃあ、学校はそんな綺麗事ばっか教えてくるの?』
「それはないとしても、価値を見出して欲しいからだ。」
彼女の目に、少しの光が宿る。
『そんなの時間の無駄じゃん。』
「でも人生は無駄を生きるために存在しているから。」
彼女は泣いていた。そこには、開放されたような笑顔が見えた。
『そういうの、生きている私に言って欲しかったよ。』

9/24/2024, 2:46:28 PM