猫宮さと

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《君と最後に会った日》
私は今、一人きりだ。
彼は5カ国間首脳会議とその後に続く各国首脳との軍事貿易に関する協議の為、6日ほど他国へ出向いている。

寂しいな。
たった6日とも言うけれど、これだけの期間彼と離れているのは初めてなのだ。

心の粗食に慣れきっていた私は、ずっと相棒の中から姿を見て声を聞くだけで満たされていた。
それでも心はいっぱいいっぱいになって、想いが溢れてきて苦しいくらいだったのに。
なのにこちらに来て闇の者として監視を受ける身とは言え、他人を無碍にしない彼は無意識だろうけど普通の人として私を扱ってくれて。
あり得ない喜びを毎日受けているうちに、私はとんだ贅沢者になり下がってしまったみたい。

洗面所、食堂、リビング、廊下、玄関。
出立の日に彼が辿った順に家の中を巡る。
まだ眠気が取れないのか、寝室から出る前に身なりは整えていてもほんの少しだけぼんやりとした表情での朝の挨拶。
食材と作り手への感謝が見て取れる丁寧な食事の所作。
交わされる会話の中に織り込まれる私への気遣い。
玄関を出る直前も『身体には気を付けて。』と。それ、私が言うべき台詞なのに。

そんな彼の気配も一日毎に薄くなっていく。
明日か明後日には帰国するそうだけど、心の中の飢えはどんどん加速していく。
あなたの顔が見たい。声が聞きたい。傍にいたい。他愛のないおしゃべりがしたい。

まだ夕方前だけど、私は寝室のベッドに座った体制から身体を横たえた。
飢えた心の声に侵食されていく精神を宥めるようにクッションを抱きしめていると、気疲れからか意識は微睡んでいく。
寝室のドアは開け放したまま。まだ微かに家に残るあなたの気配を感じていたいから。

「会いたい…『あなた』に会いたいな…」
そして、意識は微睡み落ちた。
溢れる想いが口から零れ出た事も、帰国が早まり帰宅した彼がそんな私に優しく毛布を掛けてくれた事も知らず。

6/27/2024, 1:52:45 AM