村の人々は私たち一行を手厚く迎えてくれた。
この村の住民が一体何日食い繋げる量の食事だろうか、考えると感謝よりもすまなさが押し寄せてくる。
痩せた土、雨季を除けばいつも底を尽きそうな溜池、十数年経った今も癒えきれない隣村との紛争の傷あと。
貧しい村。この干し肉も恐らく彼らにとっての最上の馳走だろう。滋味深い味わいを、有難く噛みしめる。
横目で伺うと、オレアンダーが自分の皿の上で目立たぬよう指先を動かし、まじないをかけるのが見えた。彼女は旅の間中そうして、出された食事に念のための解毒の魔法を施すのが常だ。毒を盛られる心配をしている訳では無い、食中毒を恐れているのだ。無礼には変わりない。
反対隣を伺うと、アコニツムが食事にがっついている。これもいつもの事だ。私も成長期には、そのような激しい食欲に覚えがある。できればもうすこしだけお行儀を憶えて欲しいものだが。躾も私の役目なのだろうか。
食事が終わると村人たちは、我々を簡素な祈りの場に導いてくれた。
神聖な場であるため、私とアコニツムの剣、オレアンダーのメイスを持ち込むことが禁じられた。
我々が信仰する神とは、祭壇の様式も、祈りの言葉も、焚かれた香もまるで似ていないが、私はこの村の人々の幸せをただ静かに祈らせてもらうことにした。
先程教わった作法で祭壇の前に両膝をつき、次いで両の腕先、額を床につけ、目を閉じる。
アコニツムは上手く出来ているだろうか。オレアンダーは無礼な態度を取ってはいないだろうか。
……異教の神の前で雑念など、無礼なのは私のほうだ。祈りに集中する。
後ろで村人たちが我々の背を見守っているのだろうか。そういえば昨日、私のマントに解れがあったが、気付かれてしまうだろうか。長い旅路だ、衣服の傷みくらいあって当然だろう。しかし、私は女王陛下より賜ったこのマントの手入れだけは欠かしたことがなく、オレアンダーにポケットマネーを渡し、修復のまじないを頼んでいるほどだ。ある程度大きな町ならば腕の良い繕いの職人もいるが、決して魔法には勝てない。正直、職人に払う代金のほうがオレアンダーへの謝礼よりもかなり安くつく。彼女は仲間割りなどは設けない主義だ。
祈りに集中する。
そういえばすこし、脇腹が痛む気がする。先程食べた干し肉は発酵臭がきつかった。そういう郷土料理的な味付けだと思い気にしないようつとめたが、もしそうでは無かったとしたら……。そもそもあれは一体何の肉だったのだろうか。東方の国々では魔物の肉を加工し食用にする文化もあるというが、この村にもその流れはあるのだろうか。いや、ここはまだ東とは言いきれない。しかし、そもそもどこを起点に東方と呼んでいるのか。我々の故郷より西の国々が起点であるならば、ここは既に東方の国なのか。
祈りに集中する。
先程料理を運んでくれた村娘は素朴ながら、大変に美しい子だった。旅の間実に不思議に思うのだが、田舎の村ほど、僻地になるほど、小汚い土地ほど、村一番の女性の美しさが増すのだ。周囲の環境が引立て役となっているのかと考えたこともあったが、どうやらそうではないらしく、この意見はアコニツムとも合致した。そういう意味でも、あの娘の美しさは目を見張るものがあった。年齢でいえば恐らくアコニツムに近いだろう。しかしあの年頃の娘は、年上の男に憧れるものなのだ。先月立ち寄った村の娘のように、夜半過ぎ私の部屋のドアをそっと叩くのではないだろうか。あの夜は厠へ起き出したオレアンダーの邪魔が入ったが、その後からは寝入りばなのオレアンダーと、ついでにアコニツムに熟睡のまじないを掛けるようにしているからもう心配はない。集中できる。
祈りに集中する。
そういえば先程、村人たちに武器を渡してしまったが、本当に彼らは根っからの善人なのだろうか。今、後ろから襲い掛かられたら、私はすかさず身を翻し、まず一撃目を華麗に躱す。躱すや否や相手の武器を叩き落とし、奪い返す。オレアンダーもその時になれば呪文の詠唱を始めるだろうし、アコニツムも子犬のような素早さで敵に飛び掛かるだろう!そこで私は剣を振り下ろし、目にも止まらぬ速さで次々と叩き斬る!!
……祈りに集中。
『祈りの果て』
11/13/2025, 12:12:34 PM