【 平穏な日常 】
あちこちから上がる煙の筋。
黒焦げて崩れ、元が分からなくなった建物。
一歩ごとに蹴躓く何かの死体。
一瞬で消された風景は、一瞬で思い出せなくなった。
断片しかない記憶を必死に繋いで辿ってみた。
真っ昼間の建屋内でも分かるほどの強い光が、
突然空から降り注いだ。
目が眩んだかと思えば、追いかけるように爆音が響く。
意識が飛んで、気付いたらこの状態だ。
あまりの呆気なさに、引きつったような笑みすら浮かぶ。
(これは何だ?どういうことだ?)
思考が先へ進まないまま頭を抱えていたら、
今度は瞬時に暗闇に覆われ、また意識が無くなった。
「お疲れ様でしたー。体験終了でーす」
間延びした声で目覚めると、全身に取り付けられていた装置が外されているところだった。
「『リアル戦争最前線』、アンケートお願いしまーす」
次第にすっきりしていく頭が、ようやく状況を理解した。
夢のようで夢じゃない、不思議な感覚だった。
あんな思い、現実でなくて良かった―――。
肩が震えるのを無理やり抑え込んで、会場を後にした。
3/12/2024, 6:45:22 AM