与太ガラス

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 玄関のドアを開けると、薄暗い街に街灯が光っていた。後ろから新聞配達の原付の音が聞こえる。歩きながらBluetoothイヤホンを起こしたら、勝手にスマホと接続した。私は昨夜の深夜ラジオを再生する。

 駅前のコンビニで朝食を探す。パンのコーナーを歩くが、大半が砂糖菓子のような菓子パンでいつもうんざりする。砂糖味の食べ物は食事ではなく娯楽に分類するべきだ。粗挽きソーセージパンは昨日食べたから、消去法でカレーパンを手に取った。コンビニを出てもまだ空は暗い。

 地下鉄のホームに着くといつも迷う。このカレーパンをどこで食べるべきか。電車を待ついまのタイミングで食べ始めたら電車が来るまでに完食できないだろう。もちろん電車内で食べるのは御法度。乗り換えのタイミングも時間がない。

 結局いつも電車を降りたホームの待合室で食べることになる。朝食をカバンに入れたまま、およそ二時間後だ。別に会社に着いてから食べてもいいんだけど、そこは、まあ……。

 そして電車はやってくる。今日も変わらず、同じ時間に。同じ停車位置に。

 車内に入ると、だいたい座席は空いている。だけどいつも同じ場所ということはない。座ってしまえばすぐに目を閉じる。Bluetoothイヤホンからは昨夜の深夜ラジオが流れている。長い通勤電車の中で起きていたらダメな気がして、ウトウトしながら聴いているから、最近はあまり話も入ってこない。数少ない趣味のひとつだったはずなのに。

 電車が北千住駅を過ぎたぐらいで、ビルの間から光がのぞく。地下鉄に乗ったはずなのに。目を上げるとスカイツリーの輪郭を赤い太陽がかすめていく。見とれているのはほんの数瞬のこと。それもやがて眩しくなって、ついには体を丸くしてダウンジャケットに顔を埋めるのだった。

 僕の耳元では佐久間宣行が自分のトークに大笑いしているが、車両の中はきっとみな押し黙っている。

 隣の人も同じ朝を迎えたんだなと思うと、自分ばかりでなくこの国の行く末まで憂いてしまう。

 まだ寝ていたい。そう思った。僕は朝日から身を隠しながら、こんな夜明けが子どもたちの未来に訪れないことを願った。

2/7/2025, 12:58:58 AM