「無垢」
いつも通り朝が来て、いつも通り起きる。
いつも通り自称マッドサイエンティストに挨拶して、いつも通りそいつが作った朝飯を食べる。
ただただありきたりな日常を送っているだけなのに、いつの間にか心が曲がって擦れて汚れる。
ひとの、自分の汚い所ばかり目について嫌になって。
そのうち夢も希望もなくなって。
ただただ日常をやり過ごすだけになる。
それに比べてあんたは、自分よりもずっと長い間宇宙管理の仕事をしているのに、純粋というか、無垢とでも言うべきか。
とにかくまっすぐなままなんだ。
「無垢かあ!!!キミにはボクがそんな風に見えているんだね!!!参考になるよ!!!」
「ボクは宇宙一仕事をしているマッドサイエンティストだ!!!だからいろんなものを見てきたのさ!!!暖かいものも、冷たいものも!!!」
「だからボクはキミの思うような『無垢』な存在とは言えないかもしれないね!!!」
「だが!!!ボクは宇宙を愛して守りたいのさ!!!冷たさにも暖かさを見出し、たとえどれだけ拒絶されたとしても手を差し伸べる!!!そうありたいのだよ!!!」
「ところで無垢といえば、少し前に新任のアーカイブ管理士に会ってね〜!!!まだまだ小さく極めて愛らしい!!!ボクには及ばないが!!!」
「それって、わたしのことですかぁ?」
「そうそう、キミのこと……」
「「え???」」
自称マッドサイエンティストの喉から変な音が出た気がする。
……というかあれは誰なんだ?!お前の知り合いは鍵掛けてるはずなのに勝手に上がってくるやつばっかりじゃないか!
「あああのぉご無礼を働き申し訳ないのですぅ!」
「わたしは新任の公認宇宙管理士ですぅ!アーカイブ管理室に所属しているのですぅ!よろしくおねがいしますですぅ!」
「おやおやおはよう……。さっき会ったばかりだと思うのだが、ボクに何か用かい?」
「はいぃ!あなたに逮捕状が出ているのですぅ!」
「「は?!!」」
お前、何やったんだよ?!逮捕状?!!
「間違いなく濡れ衣だよお!!!」
「えぇ、と……。仮にボクに宛てた逮捕状があったとして、なぜアーカイブ管理士のキミが来たんだい?」
「最後にわたしにお話しされた言葉が変だったから、ですぅ!」
「ボクが話した言葉が?……あっ。」
あってはいけない心当たりがあるのか。
「『急用を思い出したから』っていう言い回しのことだね?」
「さすがマッドサイエンティストさん!大正解なのですぅ!」
「はぁ……全く。」
「アーカイブに不正アクセスして旧宇宙管理士を勝手に持ち出し、罪から逃れようと本部からの逃亡は、流石に看過できない……とのことですぅ。」
お前、そんなことしたのか?
「だから!!!してないって!!!」
「そもそもそんなことをしてボクが得すると思うのかい?!!」
「そんなハイリスクな自作自演など行いたくはないよ!!!」
「新人くん、迅速な対応は評価に値するよ。だが、キミも分かっているはずだ。」
「ボクはやってない!!!や っ て な い ! ! !」
「そうだねぇ……納得がいかない以上、ボクかてそう易々と引き下がるわけにもいかない。とはいえ、このまま放置するのはもっとまずい事になる。」
「よーし!!!ボクも腹を括った!!!」
「新人くん!!!ボクが変なことをしていないことを証明するために!!!ここでボクを見張りたまえ!!!」
「えっ、えぇーっ?!」
「そしてトラブル発生以降のボクの全データをチェックし、本部に転送するといい!!!分かったね?!!」
「よーし……。」
「画面越しにこっちを見ている本部の皆さん!!!今の発言は聞いていたね?!!これから新人くんがボクのことをしーっかり監視する上、データのチェックも行ってくれる!!!」
「この子の初仕事だ!!!暖かく見守りたまえよ!!!」
「う、うわぁーなのです!」
「これでキミも後には引けないね。」
新人……の桜色の髪と深緑の瞳が震えている。気の毒だ。
というか、監視するっていうことは居候がひとり増えるってことだよな……?
本物の無垢と無垢だと思っていた存在を見比べて、これからさらに騒がしくなりそうな生活のことを考えることくらいしかできなかった。
6/1/2024, 4:36:28 PM