とある恋人たちの日常。

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 夕飯後、まったりとソファーに座っていると、彼女から抱き締められた。
 なにごとかと思って慌てたけれど、落ち着いて優しく抱き締め返す。
 
「どうしたの?」
 
 彼女はぎゅうっと強く抱き締めながら囁いた。
 
「わたしの……」
 
 それだけ?
 と言うか、この『わたしの』は俺のこと?
 
 ああ、なるほど。
 何があったかは分からないけれど、全力の甘えモードに入っていることは分かった。
 
 普段、遠慮して甘えることがない恋人が、時々全力で甘えてくるこのモードが俺はたまらなく好きだった。
 本当に相手を思って自分を押し殺すタイプの彼女が、全力の甘ったれを行使する。不安が解消されていく瞬間だ。
 
「俺は君のものだよ」
 
 甘えモードには、甘さを込めた言葉が効く。だから、俺も彼女に甘く囁いた。
 
「付き合い始めた頃に、あなたを好きな人がいたら、私はその人のために退けた」
「うん」
「でも……もう無理。今は退けない」
 
 彼女が顔を上げて俺をじっと見つめる。目の端に光る雫が頬に流れた。
 
「退かれたら、俺が困っちゃう」
「ん……」
「まあ、退かれても、俺が捕まえに行くからね」
 
 彼女に安心して欲しくて、そう言ってから再び強く抱き締めた。
 
 
 
 後で『甘えてごめんなさい』と言われてしまう、彼女の甘ったれモード。
 実のところ、俺にはただのご褒美タイムなんだよな。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:誰かのためになるならば

7/26/2024, 10:34:48 AM