夕木

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【題:花束】

 少しアルコールに酔った彼と共に帰路をたどる。

 別れ際、私は足を止めて鞄からあるものを取り出し、彼に告げる。

「20歳の誕生日、おめでとう!」

 彼に大きなバラの花束を手渡す。

 黄色とオレンジの中に赤がアクセントとして輝いている。

 我ながら良くできた花束だ。

「でかっ……花束? ああ、ありがとう」

 すこし戸惑ったあと、優しい手付きで受け取ってくれた。

「嬉しいけど、なんで花束なんだ? いまさらそういうのを贈りあう仲じゃないだろ」

 ――まあ、そうなるよね。『幼なじみ』にプロポーズ用みたいな大きさの花束を贈るだなんて聞いたことがない。

「うーん……そういう気分だったから? それに、昔っからお花好きだって言ってたから、喜んでくれるかな~って」

 一呼吸おいて、言葉を続ける。

「それに、友達にバラを送るっていうのも結構ある話らしいよ~。黄色いバラの花言葉は『友情』、オレンジのバラの花言葉は『信頼』とか『絆』らしいし!」

「……へえ、そうなのか。知らなかった。ありがとうな。それと――」

 大人っぽい笑顔をこちらに向ける。

「これからもよろしくな」

「……うん、よろしく! 今日は楽しかったよ! じゃあね~」

「ああ、また」

 手を振り、彼と別れる。


 大きくため息をつく。

 ――ああ、緊張したな。でもやっぱり、あの反応なら……無理だよね

 隠したいけど、報われてみたい恋心。

 終わらせたいけど、10年以上諦めきれなかった恋心。

 終わってしまう前に少しでも行動してみたい。そういう思いで作ったのがあの、99本もの赤系統のバラを束ねた花束だった。


 99本のバラの花言葉は『永遠の愛』。

 
 遠回しすぎるメッセージの伝え方に、自分でも呆れてしまう。

 でも仕方ないよね。告白に失敗して、友人関係まで失いたくなかったんだ。

 それに――もし本数まできちんと数えてくれたなら、私に大きく気をかけてくれているということで……

 指摘されたら、彼にもちょっとは私への愛があるって思ってもいいんじゃないだろうか。

 家に着き、どさりとベットに横たわる。

 私はお酒は飲んでいないはずなのに、顔がとても熱い。

 私からのメッセージに彼が気づくのを今か今かと待ってしまう。

 くるわけもないのにメッセージアプリを開いて、彼からの返答を待ち続けてしまう。

 諦めてしまえれば、想いを直接伝えられたら、こんなじれったい時間過ごすことはなかったのかな……



 スマホの画面は、何時間たっても黒いままだった。

2/9/2026, 12:38:22 PM