題.桜散る
桜の木の下。筆を構えて、持ってきた短冊をにらみつけてもそこに文字が現れる気配は一向に無い。
この脳内の創作意欲が枯渇していた。表現のかけらさえ浮かびそうにはない、せっかくこんなところまで来たのに。
喉の奥につまるものが苦しくなり、あきらめて、天を仰いだ。見えるはずの青空を桜が覆い尽くしている。
よく見ると枝先のほうはもう、若い青色の葉になっていた。
桜が散っている。舞っているようにも見えるし、踊っているようにも見える。
今のわたしには、それだけしか浮かばない。
どんな文章が生まれたとしても、既に先人の文豪たちに奪われていた気がする。ありったけの言葉を並べても足りない。
苦しい。この身に、この心に、溢れる感情をはやく形にして、楽にしてあげないと。
そう思うのに、筆が動かない。せっかく浸した墨も行き場をなくしている。
後日。わたしは遠くに行った、二度とあの桜に邂逅を遂げられないところまで。
お医者さまは原因不明でただの自尽だったと判断したが、わたしの恩師は「倦怠期」という病にかかっていたと話したそうな。
4/18/2023, 3:06:18 AM