笛闘紳士(てきとうしんし)

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        [まゆ 私の人生No.❓]

6歳を少し過ぎた私は、最近、自分に起こっている変化を不安に感じている。下の前歯が動く様になってきた

今までは何も感じ無かったけれど、その事をハッキリ自覚してからは、歯が動く度に不安になって、ご飯を食べるスピードも今までよりゆっくりになった。そんな私の小さな変化をママとは見逃さなかった。

「まゆ?最近ゆっくり食べているけど、食欲ないの?」

ママは少し心配そうな声で私に聞いてきた

「下の前歯…動くの」

それを聞いたママは安心した表情をすると和かに笑って言った

「もうそんな時期か。まゆ。今度歯医者さん行こっか」

「嫌だ。ごめんなさい」

ママが私に 歯医者行こっか と言うのは、私が何かママを困らせたり嫌な事をした時だった。口の中に色々な機械を入れてくる歯医者が怖い私にとって、その言葉は絶望的な言葉だった

実際にもっと小さい頃、お菓子売り場で駄々を捏ねた帰りに歯医者に連れて行かれた事があった。それからも私が何か、ママにとって嫌な事や悪い事をやってしまう度に 歯医者行こっか と言ってきた

久しぶりに言われたその言葉に、歯医者で怖い思いをした状況を鮮明に思い出した私は、怖くなって泣いてしまった
(また機械を沢山、口に入れられる)

そんな私の頭をママは、優しく撫でて言った

「怒ったりしてないから。今、まゆが動いているって言った歯は、乳歯って言って、赤ちゃんの歯。無くなっちゃう歯なの。だけどまゆには、永久歯って言う新しい歯が生えてくるの。赤ちゃんの歯は無くなっても大丈夫だから、歯医者さんの先生に動いている赤ちゃんの歯、見せに行こ?」

「永久歯が無くなったら?」

「もう、永遠に 生えてこない。まゆが大人になっても、そこだけ歯が無い。お爺ちゃんみたいになっちゃう。だから、永久歯が生えてきたら、永久歯が無くならない様に、定期的に歯医者さんに行こ?」

「うん」

それから数日後、私はママと一緒に歯医者に行って生え代変わりの診断をしてもらって、歯医者さんから乳歯ケースを貰った。歯医者に行った翌日、動いていた私の歯が抜けた。その抜けた乳歯を私は、ママとパパに見守られながら乳歯ケースに刺した。記念すべき1本目の乳歯である。

※この物語はフィクションです

永遠に 作:笛闘紳士(てきとうしんし)

11/2/2024, 2:24:30 AM