白眼野 りゅー

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 君に振られたらその瞬間、全部がリセットされればいいのに。


【終わるはずだった、まだ続く物語】


 振られることそのものよりも、その後も僕の人生が続いていくことが耐えられない。ゲームだってそうだろう。勇者が敗北した後の、魔王に支配されていく世界なんて誰も見たくない。潔く『game over』とでも表示して、さっさと次の冒険を始めさせてくれりゃいいんだ。

「……それが、君が二日連続で告白してきた理由?」

 君は心底鬱陶しそうに言った。

「変かな」
「とりあえず、君が振られたばかりだということを忘れた記憶喪失のヤバい奴ではなくて安心したよ。記憶喪失に強い医者ではなくて、精神障害に強い医者を紹介すれば良さそうだからね」

 そういう皮肉っぽいところも僕が好きになった君の一部なので、思わずひゅうと歓声を上げた。「……そういうところが嫌いなんだけど」と苦言を呈されたので「直したら付き合ってくれる?」と返す。舌打ちされた。

「君、こういうのもストーカーだよ」
「でも、僕は君を害さないよ」
「どうだか。ゲームで負け続けた子供は、やがてゲーム機をぶん投げるだろうね」
「僕は冷静にゲーム機を置いて、机に怒りをぶつけるタイプだったよ」
「それもそれで怖いね」

 でも、そのおかげか僕のゲーム機は友人のそれがぼろぼろになっていく隣で、ずっと新品同然の輝きを放っていた。自分で言うのもなんだが、僕の持ち物になれたゲーム機は幸運だったと思う。

「そもそも、ゲームに例えるなら負けた後にするべきはレベルアップでしょう。なんで同じレベルのまま同じ敵に挑んでるのよ」
「現実とゲームは違うんだよ」
「君が持ち出した例えでしょうが」
「ゲームと違って、僕のレベルアップには君が不可欠だからね。好感度を上げるために遊園地にデートしたり一緒に映画を見たり……。振ったばかりの相手とそんなこと、君もしたくないでしょ」
「……」
「え、してくれるの?」
「誰を振っても振られても、物語は続いていくものだからね」
「……つまり?」
「振られたらそれで全部終わりだからリセットしようだなんてつまらないこと、考えなくてもいいよってこと」

 そういう、こちらに優しく手を差し伸べてくれるところ、僕が大好きな君の一部だ!

「もちろん、君が諦める気がないならの話だけど」
「魔王討伐を諦める勇者がいるわけないでしょ。手始めに、今日は一緒に帰りませんか?」
「はいはい」

 夕日が、明日も完璧なコンディションで僕らの前に顔を出すために、山の向こうへ隠れていく。

5/31/2025, 9:45:16 AM