ウツギ

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「ごめん、待ってて!」

 朝、学校へ行くとき、私はひとつ年上の姉と一緒に家を出る。

 支度が早い姉と変わり、私は行動が遅い。
 だから毎日の如く、「待ってて!」と声を張り上げている。
 寝起きの喉にはしんどいが、声をかけないと姉はさっさと行ってしまうのだから仕方ない。

 けれど四月から私が進学するため、出発する時間が変わる。 
 それぞれが自分の時間で、職場や学校へ行くのだ。

 あと何回、朝の騒がしさに紛れて「待ってて」と言えるのだろう。

 指折り数えてみて、一、二、三。
 片手の指で十分こと足りた。

 中途半端に折れ曲がった指を見て、少し寂しくなる。

「時間が待ってくれたら良いのにね」

 もう少し先延ばしにしたいと思って空に告げた。
 しかし三寒四温のこの頃、溢れた言葉は空に溶けてしまった。


 じきに何も思わなくなるものだろうが、今はやっぱり、ちょっとだけ寂しい。

2/14/2024, 6:18:58 AM