シシー

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 俺は間違っていたらしい。

 大雨の中を傘もささずに歩き回った挙げ句、静かに佇んだまま泣く姿はとても弱々しい。
あんなに悪口や嫌がらせを受けても笑っていて、平気なふりをするでもなく興味関心なんてないといわんばかりの態度で普段通りに接することをやめなかった。なのに、なぜ彼女は泣いているんだ。

 彼女は決して善人ではない。真面目な人間を演じることで善人にみえるようにしていたのだ。それだけで敵も味方もいないつまらない人間であろうとする。ただその目にはギラギラと静かに煮えたぎる感情が見え隠れしていて、とても面白い。
いつからかその姿を目で追うようになった。堂々と善人の皮を被る強かさに惹かれた。

 興冷めだ。がっかりした。

 急速に萎んでいく恋心に吐き気がする。せっかく気にかけてやったのに期待はずれもいい加減にしてほしい。
俺はいつだって味方でいてやったのに、礼もなければ挨拶すらまともにしてこないのだ。元からそういうやつだったっけか。どうでもいい。ああいうのはタイプじゃないし、むしろ大嫌いな部類だ。

「メンヘラとかむり」

 手に持っていたペンケースを校庭にいる女にむかって投げつけた。肩にあたって地面に落ちて泥だらけになったものを拾い上げた女が俺を睨みあげてくる。
 校舎の2階にいる俺と泥だらけの校庭に佇む女。とうていつり合うはずもない存在を見下ろして嗤った。そうしたら人が集まってきたからみんなで嗤った。
なんて無駄な時間だったんだろう。俺にふさわしい女なら他にいくらでもいる。



 それからひと月後、あの女は死んだ。


                【題:雨に佇む】

8/27/2023, 2:51:12 PM