真愛つむり

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「お前、ちょっと顔貸せよ」

中学生活3日目、3年の先輩に呼び出された。どうやら目をつけられたらしい。

なぜ……?
何もマズイことしてないと思うんだけど。

唯一目立ったことをしたのはシャツ裏返し事件くらいだけれど、特段先輩方の怒りを買うような出来事とは思えない。

私がおっかなびっくり先輩についていくと、先輩は校舎の裏手にある海辺まで歩いていった。

ああ、これ沈められるやつだ。

いざとなったらどうやって逃げよう、襲ってきた先輩にカウンターをくらわせて逆に突き落として……

なんてことを考えていたら、先輩がふいに立ち止まった。振り返って言う。

「お前、名前は」

「えと、岡野煌時です」

「煌時。得意科目は」

「へ? えっと、国語ですかね」

「ふ〜ん……運動は苦手か?」

「いえ、わりと好きなほうです」

何これ、自己紹介?

「じゃあ泳ぎは。速いか?」

「いえ、特に速くは……平均くらいかと」

「よし」

よしって何? やっぱり落とされる??

「俺は水泳部だ」

「はぁ、そうですか」

「お前も入れ」

「はい???」

「俺がバッチリしごいてやるよ」

「い、いえ私は弓道部に入ろうかと」

「お前、先輩の言うことが聞けないのか」

「え、でも……」

「とにかく入れ。逃げたら許さん」

本当に何だこれ?
部活の勧誘?
でもなぜ私を? もっと泳ぎが得意な新入生はたくさんいるだろうし、そういう子に入ってもらったほうが都合がいいのではないか。

(ワケがわからない……)

先輩は途方に暮れる私を置いて去って行った。

教室に戻ると、心配したクラスメイトたちに囲まれ質問攻めにあった。

「どうしたらいいかな……」

「そりゃあ水泳部入るしかないっしょ」

「えぇ〜」

「そうだよ。でないとボコボコにされる」

「ボコボコにされるの!?」

ボコボコは困る。でも弓道部に入るって先生に言っちゃったしなぁ。


『……ということがありました』

『そっか。君の中学生活は波乱万丈ですね』

帰宅して速攻で先生に相談した私。やっぱり先生もクラスのみんなと同じ意見だろうか。

『何も悪いことしてないのに、なぜこんなことに🥲』

『君にはやりたい部に入部してほしいですが、そばにいて守ってあげられるわけじゃないですからね……』
『いっそ掛け持ちしては?』

『そうですね、体力がもつかは賭けですが』

『きっとやれますよ💪』
『それより、その先輩の意図が気になりますね。なぜ元水泳部でもない君を個人的に勧誘したのか』

『ですよね!』
『名前も知らなかったみたいだし、なぜ私に目をつけたんでしょうか』

『君のことをどこかで見て、顔だけ知っていたんでしょうね』

『問題は気に入ったから誘ったのか、気に食わないからいじめてやろうと誘ったのかです』

『前者であることを祈りましょう。後者であれば、すぐに連絡してください。君のお父さんに相談して、学校側と話し合います』

『頼もしいです(*´˘`*)』
『ちなみに先生』
『もし私が気に入られてたら、妬いてくれますか?』

『……妬いてほしいんですね』

『はい🥰』

『ちなみに、その先輩の名前は?』

『あ、話逸らした😡』
『そういえば聞いてませんね。名乗らずに行ってしまいました』

『そうですか……ますます謎ですね』

『まぁ、何とかやってみます。まずは体験入部』

『応援しています😊』

謎の先輩の件は不安だが、体験入部自体は楽しみだ。先生の教え通り、自分らしく楽しもう。

私は先輩の後ろに見えた海が意外に綺麗だったことを思い出しながら眠りについた。


テーマ「海へ」

8/24/2024, 9:36:48 AM