通りすがりの無能

Open App

『最初から決まってた』
20XX年X月XX日、飼っていた犬が○んだ。
あいつは人懐っこくて皆に可愛がられていた。
僕が小さい頃から一緒にいて、
一緒にたくさん遊んだ。
悲しい時は慰めてくれた。
「ただいま」と言えば「おかえり」と言うように飛びついてきた。
うるさいくらいに元気に吠えながら、いつも僕のそばにいてくれた。

最初からわかっていた。生き物はいつか○ぬ。
そう決まっている。かなりの老齢だと言われていたから、ちゃんと覚悟もしていた。
なのに、いざその時が来るとそれを認められずにいる。
「何であいつが」「認めない」「今じゃなくていいだろ」
…何で、今なんだよ。
今日じゃなくても、明日とか明後日とかでもいいじゃん…
楽しかった思い出、嬉しい気持ち。あいつが残していった
モノ一つ一つが、僕の心を締め付ける。
「何で…っ」
涙で視界が滲む。
「ワンッ」
あいつの声が聞こえたような気がした。
懐かしい、僕が落ち込んでいるのを慰めてくれているときの声色だった。
何だよ、悲しむなってか?
誰のせいでこんな…
あいつの今までの姿が浮かぶ。

「良いよ、やってやるよ。」
自然と笑顔になった。
僕はあいつの写真に向かって宣言した。
「僕がお前の分まで生きてやる!!いつかその時が来ることが決まっていてもそれまで精一杯頑張ってやる!!楽しい思い出とか土産話たくさん作ってやるから待ってろ!!!」
最後の方はあほぼ叫ぶ形のになってしまった。
あいつの満足そうな顔が頭に浮かぶ。
「ハハッまだまだこれからなんだから、こんなんで満足してんじゃねえよ。」
最後の涙が頬を伝った後、僕は未来に向かって歩き出した。

8/7/2024, 6:07:19 PM