【星空の下で】
彼女は綺麗だった。この手で掴みたいくらいに。届かないことくらいは分かっていた。星空の下で馬鹿みたいに手を伸ばす、届きもしない。でも、届かなくなるほどに欲しいから。悪い癖かもしれない。それでも、こうなったら自分を止められないことは自分が一番分かっている。やっぱり悪い癖だ。
「ねぇ、どうしていたらよかったと思う?」
「そんなこと聞かないでよ、分かってるくせに。」
泣いている顔を見られないようにって精一杯振った結果がこれだった。諦めるつもりはないのに振るっていうのもおかしな話なのかもしれない。なんで、彼女は振られてしまうのかなんて俺にだって分からない。
「俺さ、諦め悪いからまた告白しにくるよ。」
なんの宣言かも分からない、振ったのに。祭りの夜。屋台からは少しだけ離れて人の少ないところ。少なくとも知り合いはいないであろう場所で泣いてしまう俺を静かに見つめる彼女。今日、彼女が告白されるのを見てしまった。彼女はきっと告白を断っただろう。けれど、俺に振られた。きっと諦めの悪い俺のことを知っているから彼女は泣かないんだと思った。彼女の言葉を知らなくて、心に気づけなかった。
「どんな顔で待っててほしい?」
「どんな顔でもいい、なんなら待たなくてもいいよ。諦め悪いことだけ知っていてよ。」
この言葉にどれだけの意味があるのか。どれほどの重みがあるのか。彼女だけ知っていた。だから、この時だけ悲しそうな顔をしたんだ。泣かない彼女を月は照らす。泣いている俺を星空は隠すつもりはないらしい。
「待たせてくれてもいいのにね。」
4/5/2023, 3:07:29 PM