私は特別な存在だけが集まるパーティを主催した。
このパーティは、歓談や食事のために開催されたものではない。
そのため、食事自体の質はあまりよくなく、歓談する人間も少ない。
だが参加者全員が、これから起こる事にウズウズしていた。
無理もない。
彼らは、メインディッシュであるパーティの出し物を見に来たのだ。
自分たちのつまらない人生を彩る、そんな出し物を……
◇ ◇ ◇
私たちは何不自由ない人生を送ってきた。
使いきれないほど持っている金。
世界各地にある豪邸。
アメリカ大統領ですら、ご機嫌伺いに来る影響力。
私たちが持っていないものなどない。
そう、私たちは特別な存在なのだ。
だが、ある時から私は人生がつまらなく感じ始めた。
何をしても満ち足りない。
そんなとき、漫画を読んでいて思いついた
それは人間の本性を暴くこと。
これを思いついたとき、人生で経験したことのないくらいの高揚感を感じた。
人間だれしも、醜い欲望をもっている。
だがそれを理性の元に封じ込め、まるで聖人のように振舞っている。
その欲望を、白日の下に暴き出す。
素晴らしいエンターテイメント!
それをどうやって暴くか……
決まっている。
デスゲームだ!
適当な人間どもを集め、殺し合わせる。
生き残った一人だけが生きて帰れ、しかも莫大な金を渡すと言ってだ。
愛を囁く恋人たちや平和主義者たちも、自分の命がかかっていれば殺し合う事であろう。
まさに痛快。
そして私は同志を募り、計画を立ち上げた。
巨万の富をつぎ込み、会場を作り上げ、ゲームの参加者を選定、いろいろやることがあった。
それぞれの得意分野を活かし、デスゲームを実現したのだ。
他の見込みのありそうな成功者たちにも声をかけた。
喜びを共有するためだ。
準備は整った。
あとは観戦して楽しむだけ。
私の人生はここから始まる。
◇ ◇ ◇
『えーー、お集りの皆さん、こんにちは。担当の鈴木です』
パーティ会場に男の声が響き、はっと我に返る。
どうやら、空想に入り込んでいたようだ。
『えーまず最初に……
予定されていたデスゲームですが――』
男の続きの言葉を聞くため、会場の人間が全員耳を澄ませる。
『――中止です』
は?
会場にいる全員が言葉を失う。
『実は、工事業者にお金を持ち逃げされました。
誘拐業者も夜逃げして、ゲーム参加予定者もいません。
何一つ、準備出来てないので開催できません』
会場のあちこちからブーイングが巻き起こる。
私たちは人間の醜い部分を見るために、ここに集った。
それが叶わないとするなら、我々はいったい何をしに来たと言うのか。
というかそれはそれで、報告上げるべきだろ!
『みなさん、人間の本性が見たいとのことだったのでご満足しただけたかと。
全員崇高な使命より、お金のほうが大事なんですよ』
鈴木は『満足でしょ』と間の抜けた事を言い放つ。
いや、それで納得できるか!
『とはいえ、中には人間が殺しあう様子をご覧になりたい人もいるでしょう。
そちらだけは準備させていただきました』
いろいろ予想外だったが、デスゲーム自体はやるんだな。
ほっと、胸を撫でおろす。
いや待て、さっきデスゲームは中止と言って……
『皆様、近くのテーブルの裏をご覧ください』
男に言われるがまま、テーブルの裏を覗く。
そこには小さな箱がある。
嫌な予感がしながら開けてみると、そこには小さなナイフが入っていた。
「おい扉が開かないぞ」
参加者の一人が、扉を開けようと体当たりをしている。
そして周囲を見渡せば、先ほどまでいたウェイターが一人もいない。
まさか、これは……
『皆さん、人間が争うのがお好きなようなので――』
最初と同じ、淡々とした口調。
だが、私は背筋に冷たいものを感じた。
『パーティの参加者にやってもらおうと思います。
それでは……殺し合いを始めてください』
3/24/2024, 9:24:19 AM