【束の間の休息】
勇者の剣である聖剣は、自浄機能も自己修復機能もあって、砥石なんて要らない。
だけど仲間の武器はそうもいかないから、鍛冶屋に修理を頼んだりする。
魔物との戦闘の合間。比較的安全な町に寄って束の間の休息だ。
武器や鎧を預けている間に、ブーツの泥を落とし破れたマントを繕い、洗濯をし、消耗品や食料を補給する。
風呂に入ってベッドで眠り、店で食事をして、自分が殺戮兵器からヒトに戻ったような気分になった。
町を歩けば「勇者様ー!」と声援が聞こえてくる。血塗れの英雄の、綺麗な部分しか知らない人たちだ。
実際に俺が戦う姿を見たら、黄色い声なんて上げられないだろう。勇者パーティを支援するために国からついて来た騎士でさえ、顔を強張らせるんだから。
魔王を倒したら。
世界が平和になったら。
安全な場所で待っていた人たちは……
俺たちをちゃんと迎え入れてくれるのか?
用済みになった俺に居場所はあるのか?
…………だめだな。
休息は束の間で十分。
早く次の敵を屠りに行こう。
これ以上余計なことを考えてしまう前に。
10/8/2024, 1:29:51 PM