川柳えむ

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 この世界には魔法や魔物といったものが存在している。
 人々は、魔法の恩恵を享受し、また、魔物の影に怯え生きていた。

「わぁー! 海だー!」
「これが海……」
「すげー!」
「本当に大陸って海の中にあるんだな……」
 仲間達と旅を続けるうちに、新しい大陸へと進むことになった。
 他にも大陸が存在していることは知っていた。海を跨いだその先にあることも。しかし、知識として知っていても、実際に初めて海を目の当たりにすると、なんとも不思議な感覚になる。
「この向こうに、新しい大陸が……」
 目を凝らすが、ただ広い海が広がっているだけだった。
「相当遠いみたいだから、見えるわけないよ」
「船に乗っていくんだよね!」
 港に止まる大きな船を見上げる。
 本当は、仲間に、変身して人を空に乗せて飛べる生き物がいるのだが、それはそれ。一度船に乗ってみたいという大多数の希望で、船に乗ることなった。
 出発は明日。
 ワクワクしながら宿で一晩過ごす。

「無人島に行くならば」
「はい?」
「無人島って知ってるか? 海には大陸以外にも小さな島がいくつかあって、その中には誰も住んでいない島もあるらしい」
「へぇー」
「で、無人島に一つだけ持っていけるなら、何を持っていく? って定番の質問があるらしい」
「なんで一つだけ」
「荷物増やしたくないんじゃね?」
「まぁでも魔法使える人なら荷物なくても大体なんとかなりそう」
「人と連絡取れるアイテムかなー」
 宿での夜、興奮して眠れず、みんなで集まってそんな話をしていた。

 まさか、こんなことになるとは思わなかった。
「魔物が現れて、魔物に捕まったり、海に落とされたり、飛び乗って戦っている間に、まさか船に置いていかれるとはねー!」
「文句言っても仕方ねぇ」
 長らく旅を続けている彼らは、魔物にも慣れていた。
 だから、当然乗客を守る為に(自分達も乗客ではあるが)魔物と戦った。
 船員も戦ってくれたが、大勢の乗客の命が優先だ。魔物慣れしている彼らは大丈夫だろうと踏んだのか、一瞬の隙を狙って、船はその場から逃げ出した。
 彼らは置いていかれたのだった。
 そうして、いつの間にか無人島に流れ着いていた。
「まぁでも良かったよ。みんな一緒で」
 幸い、パーティーメンバーは揃っていた。むしろパーティーメンバーだけだった。
「本当に無人島に着いちゃったね」
「どうする?」
「うーん……」
 旅をしているだけあって、野宿にも慣れている。別段困ることはない。島内以外に行く場所がないことを除けば。
「…………あ」

 そもそもだ。
 船に乗ったのは、乗ってみたいからだった。
 彼らには足があった。どこにでも行けてしまう足が。
「そうだよ。背中に乗っていけばいいんじゃーん」
 変身できる仲間が、翼を持つ大きな生き物に姿を変え、みんなを背に乗せる。
 そんなこんなで、あっという間に無人島生活は終わったのだった。

「一泊くらいしても良かったかなー」
「たしかに」
 遭難したとは思えない気楽な会話。
 彼らは、仲間がいれば、どこへ行っても無敵だ。


『無人島に行くならば』

10/23/2025, 11:03:37 PM