#13 三日月
三日月って、コスパいいよな。
満月みたいに気を張らなくていいし、だからと言って新月みたいに暗くない。
しかも、半月よりも注目してもらえる。
三日月がモチーフのアクセサリーは定番だもんな。
彼氏との買い物の最中、女物のアクセサリーケースの前でそんなことを考える。
「深月、決まった?」
おっとりとした、あったかい声が上から降ってくる。
「これにしようかな」
そう言いながら、私が指さしたのは三日月のかわいらしいネックレス。
普段より半音高い猫撫で声。
彼氏の前でしか出ない私。
本当は、その隣にあった、丸いリングのついたやつが欲しかった。
新月みたいで私っぽかったから。
「ほんとにこれでいいの?」
太陽は、私の目をまっすぐ見て聞いてきた。
彼はいつも、私に物を買ってくれるとき、そう質問してくる。
私は決まって頬をかきながら頷くのだ。
そうすると彼は、
「ふふ、深月っぽい」
一拍おいてそう言ったあと、微笑んで私の選んだネックレスを優しくレジに持っていく。
ああ。また、言えなかった。
太陽と付き合って三ヶ月。
私はずっと、可愛い彼女を演じてきた。
アクセサリーも、メイクも、食べ物も。
かわいさを重視して選んだ。
本当は、アクセサリーだって、ボーイッシュな方が好きだ。
メイクだって肌が荒れるし、時間もかかるからしたくない。
甘いものなんか、全然好きじゃない。
「お店の外で待ってて」
そう言われたから、すぐそこにあったベンチに座る。
太陽が戻ってきた。
「はい、どうぞ」
太陽はそう言いながら可愛くラッピングされた小包みを優しく手の上に置いてくれた。
「ありがとう、家で開けようかな」
そう上目遣いで笑いかけると、彼は嬉しそうに片手を差し出してくる。
手つなご、の合図だ。
私は素直に彼の手に触れる。
彼の大きな手が私の手を包んだ。
そして、二人で歩き出す。
二人の部屋に向かって。
部屋に着いた。
二人でソファに腰かける。
彼が、
「ねぇ、プレゼント、開けてみてよ」
柔らかくて、甘い声でそう言う。
「さっき、一緒に買ったじゃん」
私はそう笑いかける。
「いいから!」
彼に促されるまま、小包みを開いた。
呼吸が止まる。
そこに入っていたのは、私が本当に欲しかった、丸いリングのついたネックレスだった。
「なんで」
思わず、いつもの猫撫で声を忘れてしまう。
「これの方が深月っぽくて素敵だったから」
彼は申し訳なさそうにこう続ける。
「いつも、無理させてたよね」
私は、何も言えなかった。
「気付いてる?深月、嘘つく時、必ず頬かくの」
私、そんな癖、あったのか。
酷いこと、したな。
ずっと騙してたのと一緒だ。
そう思って、謝ろうとする。
でも、遮るみたいに太陽は、
「俺、そんな深月も大好きだよ」
そう言って抱きしめてくれた。
そのまま耳元で、呟く。
「だけど、俺の前で、無理しないでほしいな」
私はそこでやっと口を開く。
「太陽、大好き。」
1/9/2026, 1:49:07 PM