池上さゆり

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 点数と順位が書かれた紙を母に渡した途端、ため息をつかれた。あまりに予想通りの反応だった。
「また、お父さんに殴られるわよ。どうして、もっと勉強できないの」
「ごめんなさい」
 口癖のように漏れたその言葉には感情がこもってなかった。成績が落ちるたびに勉強時間を増やしてきた。それでも、一向に成績は伸びなかった。だから、私はすべてが嫌になって今回のテスト勉強は何もしていなかった。
 それでも、授業だけは真面目に聞いていたおかげか、いつもより少し下がった程度で済んでしまった。母が言った通り、父が帰ってくるとすぐに殴られた。
「俺の家族は代々東大を卒業しているんだ! 浪人なんて絶対にさせないからな。現役合格して、留年することなく卒業しろ」
 自分の娘が不出来なのが気に食わないらしい。繰り返したごめんなさいに疲労が溜まっていく。父の勝手な理想のせいで私は苦しかった。
 勉強してこいと言われて、自室に入った。デスクに並ぶのはこれまで勉強してきた使い切ったノート。参考書。過去問。一番新しい過去問を手に取って開ける。一番苦手な数学は飛ばして、得意な世界史のページを開ける。何度も反復したせいで、考えなくても頭の中には世界の歴史が刻まれていた。
 世界史を勉強すればするほど、人類ほど成長も進化もしないものはないと知った。動物は賢く、時代の気候や地形に合わせて進化を繰り返してきているというのに、人間はどうだ。戦争で多くの人が死ぬことを知っていながら、それが正義だと言い聞かせている。
 もちろん、私もその一人だ。父が掲げる目標から現実逃避してばかりいる。いつになったらA判定もらえるのだろうと心配が募っては焦るばかり。
 自分の意思で入学する大学すら決められない私は人類として退化しているのかもしれない。

2/27/2024, 10:56:22 AM