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 雨が降る東海道。新幹線の窓は、その凄まじい勢いで水滴が小さな蛇のように走り抜けていっていた。私はぼーっと無数の蛇が生まれ続けるのを見つめた。低気圧のせいで私は頭が重かったのだ。新幹線内の気圧変化により、イヤホンを耳に挿し込み音楽を聴くのも億劫である。
 先程まで私は友人のエンディングダイアリーを読んでいた。彼女は先月、死んでしまったのだ。若いのに、癌であったのだ。三カ月前に彼女を見て、痩せたとは思っていたが、彼女はダイエットよと言って笑っていた。
 彼女の葬儀が終わり、彼女の夫が私に貸してくれたエンディングダイアリー。読んでわかったことだが、彼女は日常の中でぷつんと死にたかったらしいのだ。張った糸がハサミで切られるように。彼女は死の準備を密かに進めながらも、愛しい日常の陽だまりにできるだけ長く浸っていたかったのだ。 
 私はエンディングダイアリーの半分を過ぎた辺りで、彼女が隠していたどうしようもない苦しみに耐えかね、それを閉じた。自分は凄まじい苦しさに犯され解放されるのは臨終の時。夫には献身的に支えられつつ生きることを望まれた。
 

8/13/2023, 6:46:09 AM