お題 時間よとまれ
気付けば、あの人の声を思い出せなくなっていた。
写真やビデオに撮られるのが嫌いな人だったから、しっかり残っている物は殆ど無い。
遺影だって大分前に無理やり撮っていた、不機嫌な顔写真を使っている。
それでも写真は姿は残せるが、動いてはくれないし、喋ってもくれない。
気付いたころには思い出の中のあの人は、声を聞かせてくれなくなった。
思い出だって時が経つにつれて、段々と忘れていってしまうんだろう。
そう思うと、どうしても急に、さみしくなる。
自分以外誰もいないリビングにある、不機嫌なあの人をながめた。
「時間よとまれ……」
こぼれた声はだれも聞いてはいなかった。
9/20/2023, 9:49:44 AM