暇だ。
大きく欠伸を一つ。ただ、だらしなく見えないようにできる限り表情筋をフル稼働して。しょぼくれた目を何度か瞬きして眠気を誤魔化そうとしたが、それは全く意味の無いことだと知った。
隣に座っている彼女は熱心に本のページをめくる。よくもまぁ活字をそんなに読み続けられるものだと感心しつつ、何より大切にしている時間に水を差すこともはばかられたので俺も大人しく本を読む、フリをしている。生憎、彼女と違って数行読めば眠気に襲われるほど本とは相性が悪い。
ふと目をやればコーヒーカップが空になっている。熱中しているので気づいていないか、キリの良いところまで読み終わったら淹れ直そうと思っているのだろう。暇な俺は眠気覚ましを兼ねて、カップをふたつ持ち立ち上がった。
砂糖やミルクも甲斐甲斐しく調節して戻ってくると、可愛らしい顔がこちらを向いて礼を言った。ついでに、つまらないでしょ、とも。そういえば、ついこの間活字が苦手なことがバレたのだったか。無駄な努力だったと思いつつ、否定もしなかった。
確かにつまらない。君が隣にいようとつまらないものはつまらないのだが、君が隣にいるからつまらない時間を過ごす価値がある。
『つまらないことでも』
8/4/2023, 6:52:46 PM