中宮雷火

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【記憶】

買ってもらった麦わら帽子を被り、オトウサンの背に乗って散歩をした。

踏切を渡るとトウモロコシ畑が見えた。
オトウサンはトウモロコシ畑の間の道を通った。
だいぶ大きなトウモロコシだ。

トウモロコシ畑を抜けてしばらく歩くと、古びた小さなお店が見えてきた。
駄菓子屋だ。
中に入ると、色とりどりのお菓子が目を引いた。
黄色くて小さいジェラートを1つ買ってもらった。

オトウサンに手を繋がれ、ジェラートを食べながら、しばらく歩いた。
誰もいない道。
ただただ田園風景が広がっていた。

ひまわり畑に着いた。
「好きなように遊んでこい」
オトウサンの手を離れた私は、ひまわり畑の中に飛び込んで走り回った。
キャッキャとはしゃぐ私を見つめるオトウサンの眼差しが温かく感じた。

「次は此処でギター弾いてあげるからな」
オトウサンがそんなことを言っていたような気がする。

しばらくして私達は帰路に着いた。
幼い私に空の青さが降っていた。

これが、私が物心つく前の話だ。
「思い出」ではなく「記憶」が蓄積していたときの話だ。

オトウサンに関する記憶は、これしかない。
その年の冬だっただろうか、
オトウサンは亡くなった。

8/11/2024, 11:17:07 AM