きのこたけのこ

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最近通い始めた喫茶店のメニュー、気になる。昔ながらの雰囲気の店内。私はいつも右奥窓際の席に座る。厚めのメニュー帳を手に取りぱらぱらめくるとハンバーグ、サンドイッチ、昔ながらのナポリタン…これは熱々の鉄板に薄焼き玉子が敷かれている。さくらんぼののったクリームソーダに硬めのプリン、店長こだわりのブレンドコーヒーやミルクセーキ。最強のラインナップ。その中で一際目の惹く『アイ』という文字。
毎回悩んで頼むのをやめる。それを繰り返すうちにアイ以外の品を制覇してしまった。そう、今日こそアイを食べにここへ来た。

「すみません、これ…アイ、を一つ。」

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい。」

注文してからテーブルに食べ物が届くまで本を読んでじっと待つ。私はこの時間が好きだ。

「お待たせいたしました。アイです。」

「ありがとうございます……おっと」

目の前に置かれたのはハート型のホットケーキだ。少し高さがある。四角く切ったバターがとろりと溶ける。添えられたシロップ入れには蜂蜜。

「これが『アイ』ですか?」

「はい。」

特に変わったところはなさそうな。食べてみたらアイと言われる所以がわかるかもしれない。

フォークで適当に切って蜂蜜をかけたあと口の中へ。ふわふわの食感とほのかな卵の香りが口内で広がる。

「美味しいけど、やっぱりただのホットケーキ?」

アイを食べ終えた私は街路樹沿いをぼーっと歩いていた。ずっと謎にしていたアイはごく普通のホットケーキだった。大きな驚きや予想外の楽しみではなかった。懐かしいような、温かいような。

「っくしゅん」

店に入る前は青かった空がもう紫がかっている。
いつのまにか私の胸は満足感で溢れていた。

1/29/2024, 1:05:12 PM