かたいなか

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「角砂糖に酒を含ませた紅茶、ってのを本で見たんだ。あと紅茶を使った調味料とか」
要は「紅茶」が投稿文章内に入ってりゃ良いんだろ?某所在住物書きはマグカップから口を離した。
紅茶の茶葉だけの場合、ベルガモット等々で香り付けした場合、それからミルク・酒の有無。
紅茶の香りは多様である。

「で、ひょんなことから、諸事情で、『紅茶のお茶漬け』とかいう未知の情報提供を受けてだな……」
試しに紅茶に、海苔茶漬けの素をブチ込んでみたワケよ。物書きは言い終えると、再度マグカップに口をつけて、ずずっ、ごくり。
「うん。……うん」
そのまま、窓の外を見た。 食えないことはない。
あとは各々の好みの問題である。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、朝。
今回のお題回収役であるところの雪国出身者は、名前を藤森というのだが、
昨晩、書類の用意と仕事の準備とに睡眠時間を削られて、スマホのアラームによって定時に起き、
寝ぼけた頭でほうじ茶の茶漬けを作ろうとして
茶碗に白米、茶葉置き場の棚から茶缶、
急須に茶色い茶葉と80〜85℃、
梅茶漬けの素など振りかけてさぁ茶を投入
と急須を茶碗に傾けた直後、
ふわり、広がった茶の香りにピシリ。

紅茶だ。
ミルクティーに丁度良い、濃いめのアッサム。
ベルガモットやオレンジピールの介在しない、紅茶の茶葉そのままの香りである。
何にそのアッサムを注いだ?
茶漬けの素を振りかけた白米だ。
「あ……ッ!!」
藤森の寝ぼけた頭が、一気一瞬にして晴れた。
ほうじ茶や緑茶で食う茶漬けは分かるが、
紅茶で食う茶漬けとは。

すべてはほうじ茶の茶缶が紅茶の茶缶の隣に並んでいたために発生した不注意。
なにより今回のお題のせいである。

「これは……少々、マズいことを」
少々、「マズい」ことをしたかもしれない。
夢うつつの心地から一瞬で覚醒した藤森。
スマホで「紅茶 茶漬け」など検索する。
ミスにせよ不注意にせよ、自分はこの「紅茶に浸された茶漬けの素入りの白米」を食わねばならぬ。
茶碗からは、たしかに力強いアッサムと、それから茶漬けの素の塩味が香っている。
それを、食わねばならぬ。

はたして検索結果として出てきた上位のいわく、
『ダージリンベースの当店オリジナルブレンドティーに、梅干しと海苔でお茶漬けしましょう』

「淹れてしまったのはアッサムだが!?」
要するに「この茶葉で茶漬けすると美味い」より、味もシブみも強めな茶葉で淹れてしまったと。
そりゃそうである。 ミルクティーにしても負けない風味とコクと深みが特徴の茶葉である。
マズいことをした。 藤森は天井を見上げた。

「シブいだろうな」
おそるおそる、アッサムの香る白米を、それに満たされた茶碗をとり、箸をつける。
紅茶である。紅茶と、それから茶漬けの塩味の香りが、たしかに茶碗から咲いている。
「……」
ええい。ままよ。どうにでもなるがよい。
藤森は意を決して、深く息を吸い、吐き、無言で己の不注意を嘆いた数秒後、 ちゃぷ、しゃぷり。
紅茶の茶漬けを口の中へ少し、収容した。

「……ん?」
普通に茶漬けだ。しゃぷしゃぷ、しゃぶしゃぶ。
「んん?」
想定していたほどのシブい後味は無く、「ほうじ茶のフリをしてシブみを隠せないでいる紅茶」で整えた茶漬けの味が、梅茶漬けの素の塩味とともに、藤森の口の中で、おとなしくしている。
「ふつうに、食える」

そういえば某国、たしか今年の最初の頃、「紅茶に塩を入れると苦味が抑制されるんだぜ」と大々的に発表して、大荒れな大論争を巻き起こした。
しゃぶしゃぶ。紅茶の茶漬けをかき込みながら、藤森は頭の片隅に、「紅茶と塩味」の関連情報を発見した。アッサムのシブみを茶漬けの素の中の塩味が抑制したのだろう――多分。

紅茶の香りとシブみを考慮しなければ、それはほんの少しだけ、ほうじ茶の茶漬けに似ていなくも、ないような、気のせいなような。
「それなら普通にほうじ茶の茶漬けを食うかな」
ごちそうさま。藤森は茶碗を空っぽにして、キッチンで洗って、拭いて食器棚へ。
口の中には僅かに紅茶の香りとシブみが残った。

10/28/2024, 3:46:22 AM