mia

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元々は広い部屋だったけれど
いつの間にか狭くなっていた

けれどそれはこの場所で僕と彼で
積み上げてきたものを表しているはずだ

もうすぐ報告書も作り終わる

集中していたせいか
先程まで聞こえていたもう一人の作業音が
途絶えていることに気付くのが遅れた

二人きりの部屋

その人は背もたれに体重を少し預け
腕を組んだまま目を閉じていた

珍しい姿につい数秒見つめてしまったが
すぐに視線を戻し報告書を完成させた

できるだけ静かに立ち上がり
うたた寝する人の元へ歩く

綺麗に整った寝顔に
心の中で、お疲れ様です、と呟く

と、

唯一見慣れることのできない吸い込まれそうな瞳と
パチッと視線がぶつかった


「……何か飲まれますか」

いつもの声掛けをいつものようにすると

「……ああ、コーヒーをくれ」
とだけ返ってきた

瞳だけでわかりあえる
僕があえていつもの声掛けをしたこと
彼はそれに気付いた上でいつもの返事をしたこと
踏み込みすぎない、踏み込まない
必要最低限の会話だけで効率的に動く

この狭くなった部屋で積み上げてきたものだ

きっと指先でも間違ってでも触れてしまえば
この部屋は広くなってしまう

6/4/2024, 12:57:07 PM