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みかん

 じいちゃんが裏山で育てていた蜜柑は、毎年立派な実をつけた。
 その実のでこぼこした肌に触ったとき、そばにいたじいちゃんが機嫌良く言った。
 「その蜜柑はな、良いで。じゅわっと甘くて美味しいからな。」
 そんな会話をしたのも、数年前だ。今、じいちゃんは蜜柑を作るのをやめてしまって、近所の畑で、今度は母が職場から持ち帰ったアボガドを育てている。どうしてアボガドなんだろう、とそんな珍奇なラインナップを不思議に思いつつ、あの蜜柑の味を懐かしんでいる。

12/29/2023, 1:15:56 PM