桔花

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・永遠に
「…と、言うわけで、円周率は永遠に続きます。そのため便宜上πを用いて…」

本当に?
眠さ絶頂の、昼下がり。子守唄にしか聞こえないはずの先生の声が、やけにはっきり聞こえた。
***
たぶん、あれが始まりだった。
一日五桁。一年間で1800桁。
126,526桁目の数を書き終えて、私はふっと息を吐いた。
バカなことをと、人は笑うだろう。コンピュータを使えば、1秒じゃないか、と。でも、それが正しいだなんて、いったい誰が証明できる?
自分の目で、手で、永遠を知ることにこそ、意味があると言うのに。
目の前の、計算用紙。そばには愛すべき家族。
悔しさは、ある。薄れゆく意識の中、私は口を開いた。
***
バカみたい。円周率の計算なんて、心底無駄。大人しくπを使えばいいじゃない。
眉を顰めながら受け取った計算用紙は、模造紙をつなぎ合わせただけの、質素なものだった。ところどころ黄色く変色していて、正直、触りたくない。
聞けば、ひいじいちゃんの遺品らしい。早く捨ててしまえばいいのに、なぜか私の代まで回ってきてしまった。
さすがに毎日とは言わないけど、一ヶ月に五桁程度、計算しろと。うちの伝統だから、と。苦笑していたけど。
私、数学、大嫌いなのに。特大のため息が出た。
…とかなんとか言っていても、人は慣れるものだ。数ヶ月後、いつものように計算しようとして、私ははたと手を止めた。ありえない。だって。

『割りきれた』

いや。よく考えれば当然か。これだけ長い間計算し続けていて、間違えない方がおかしい。どこかで誰かがミスしたんだろう。
ちょっと迷って、私は消しゴムを手に取る。2を5に変える。
これでもう、割りきれない。ひいじいちゃんは、永遠を証明したかったのだという。
大成功だね、と私は呟いた。

11/1/2023, 1:00:18 PM