Episode.32 胸が高鳴る
ドクンドクンドクンドクンドクン。
ああ、私は前にも同じように恍惚としたことがあった。
グチャグチャと音を立てて迫ってくるものに、私はきっと興奮していた。
目が覚めてすぐ、朧げながら辺りを見渡すが、見えるものはベッド、テーブル、そしてイスが2つ。
天井には2m程の正方形の窓があった。
壁にドアが2つあるが、1つはまるで開かずの扉のように南京錠と鎖が掛けられていた。
「おはよう、やっと起きたんだ」
ふと横を見ると、同じベッドに寝転がっている男が話しかけてきた。
「…だ、れ?」
返事のつもりで声を出したが、掠れてうまく話せない。
「ここは今日から君と僕が住む部屋だよ。
"病気で虐めてくるものから逃げて来た、助けて"って
君がしつこく縋ってくるもんだからさ…僕は綺麗なも
のには目がなくてね」
「……あ」
そうだ、何故だか忘れていた。
「きっと辛いことがあったんだろう?
なら僕に全部話してごらん、受け止めてあげるよ」
それから私は、言われるがままに心の内を明かした。
私は生まれてから2年後、突如として難病を患っていると告げられた。
まだ幼く何も出来ない私には、その時告げられたことに対して何も感じていなかった。
それから10年後、母がキッチンで自殺した。
ダイニングテーブルに置かれていた遺書には、疲れたから命を絶ったことと、私に対しての謝罪が書かれていた。
"アリシア、男には気をつけるのよ。
内緒にしていてごめんなさい。"
この時はきっと、まだ幸せだったのだ。
さらに6年後、父の対応が急変した。
母が自殺してから別の女で寂しさを埋めるように、夜遊びや女を家に連れ込むことを繰り返していた。
父は昔から乱暴で、すぐ私に手を出していたのに今は何もされない。
むしろ女に嫉妬を覚え、毎晩殴られる妄想をしていた。
深夜、眠ろうと自室のベッドに潜り込んですぐ、父親が下着を脱いだ姿で部屋に入ってきた。
あまりにも突然の出来事に、私は逃げることも声を出すことも出来ず、ただ興奮気味な父を見つめることしか出来なかった。
父は私の体を弄りながら、自分の下半身にも手を伸ばしていた。
グチャグチャと音を立てて迫ってくるものに、私はきっと興奮していた。
やっと父が私のところへ戻ってきてくれた。
痛い事はしてこないが、今までとは違い"女"として見てくれていることにとても興奮していた。
その日の夜明け、私は逃げるように家から飛び出していた。
そしてその時に、通りかかった男に縋るように助けを求めたのだろう。
みんなのような、昔のような家庭のままでいたかった。
そんな思いがあるにも関わらず、手を染めてしまった。
その日の事は死ぬまで忘れない。
「辛かったね、君は凄く偉いよ…ほら、おいで」
「…っあぐ、ふ…ぅ…ごめん…な、さぃ…」
「よしよし、君は泣いてる姿まで綺麗なんだね」
何故泣いているのかは分からない。
泣いてる姿が綺麗だなんて、全く意味が分からない。
それでもただ、何も知らないこの男の暖かさに救われた気持ちでいた。
「っぅおえっ…っは、う…」
「…は?ちょっと、何してんの?
え?なんで吐いた?気持ち悪いんだよ」
「あ……っ」
ドクンドクンドクンドクンドクン。
ああ、私は前にも同じように恍惚としたことがあった。
「はあ…、ほら口開けろよ。
態々僕の綺麗な手を汚してまで食わせてやるんだか
ら、ちゃんと全部飲み込んでね」
グチャグチャと音を立てて迫ってくるものに、私はきっと興奮していた。
みっともない女なのだろうか、乱暴にされることに興奮を覚えるだなんて。
ああ、胸の高鳴りが止まらない。
「…ははっ、その顔もいいね。
感じてるの?凄く綺麗だよアリシア。
これからはずぅーっとここで一緒だよ」
名前なんて教えていないのに。
男の名前も知らないのに。
その快感に、私はまだ溺れていたい。
3/19/2024, 2:56:42 PM