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 一緒に出掛ける時、行き交う人にぶつかることがないように壁になってくれる彼。たまには私が、とすすっと場所を移動して壁の役割を代わろうとすると
「君は俺の腕を守ってて」
 巧みに言いくるめられて踊るよう元の位置。手を繋いでいたはずが腕を組んで歩くことになっている。一枚上手…。段差があればひと声掛けてくれるし適度に休憩を挟んでくれる。街道の梅の花は満開でコブシも大きく花を咲かせている。すでにいくつか散りはじめ、街道に白い絨毯が敷かれる日も遠くはなさそう。この街道は私には上品すぎるから、ピンクの梅も植えたら良いのに。アクセントになって素敵なはず。

「すっかり春だ」
「梅も咲いたし、最後は桜だね」
 薄ピンクの絨毯も素敵だなと思う。残念なことにこの地域では桜を見ることはなかった。
 丸い可愛い花弁がひらひら舞って彼の頭に。癖っ毛の髪にちょこんと載っていた。
「背が高いから飛び乗りやすいのかも」
 数段上に行き梅の花を払い終えると、彼も同じ段へ上ってくる。身長が高いなと見上げていると
「君にも載ってる」
 私にもお友だちが載っていたらしい。「ほら」と見せてくれた。
「私、気付かないで歩いてたの?」
「似合ってたよ。もう少し見ていたかったな」
 なら私も彼に載った花をもう少し楽しんでもよかった。ちょっと損した気分の私の頭をぽんぽんと撫で

「次は桜を見に行こう。来年もその次も『ずっと隣で』梅でも桜でも払いながらさ。」
 彼の笑顔と柔らかい声にとても弱くて。
『ずっと隣で』彼と笑い合えるなら、こんなに幸せなことはないと思う。

3/13/2023, 10:40:33 PM