《星に願って》
『流星群?』
「そう。今晩の……ちょうど今くらいから。あんた確かこーゆーの好きでしょ」
『まあ嫌いではないが……』
とある真冬の流星群の日。私、熊山明里はふと思い立って幼馴染でクラスメイトの蒼戒に電話をかけた。
「今日は晴れてるから星が綺麗に見えるわよー。あんたのところからも見えるでしょ?」
私はベランダに出て夜空を見上げながら言う。
『ちょっと待て……』
電話の向こうでカラカラと窓を開ける気配。
『あ、本当だ。ここまで綺麗に見えるのは久しぶりだな』
「あら、そんなことないわよ? それにあんた空を見上げる習慣なんてないでしょ」
『うるさいな』
あまり感情を見せない蒼戒の、少しだけむすっとしたような声。それに私は思わず笑ってしまう。
「『あっ』」
ほぼ同じタイミングで小さく声をあげる。
「今……」
『見えたよな』
「ええ」
何がって、流れ星が。
タイミングが同じことに、やっぱり蒼戒も同じ空を見上げているんだなって思ったり。
「そういえば願い事を三回言えたら叶うんだっけ」
『そうだが現実的に不可能だろう』
「まあそうなんだけど。……言えるとしたらなんて言う?」
『誰が言うか』
「それは私に言うかってこと? それとも星に願わないってこと?」
『あー、わかったわかった。言えばいいんだろう言えば。そのかわりお前も言いやがれ』
珍しく蒼戒がヤケクソになっている。ちょっとからかいすぎたかな。ま、いっか。
「わかった。せーので言おう。その前に考える時間いる?」
『確かに、言うも何もまず願うべきことが思いつかないな』
「あんた夢ないねぇ……」
『そう言うお前は?』
「私は……そういえば何を願おうか」
蒼戒が笑っていられますように、なんて恥ずかしくて言えないし、どうしたものか。
『お前も大概だな』
「うるさい」
『つまりお互い何も願うことがないんだったら言うも何もないだろうが』
「まあ確かに」
『そう言うことだから切るぞ。今日中に終わらせたい書類チェックがある』
「あ、ごめん、邪魔したわね」
『あ、いや、別に。……ちょうど休憩したい気分だったし』
「ならいいけど。それじゃ、また明日学校で」
『ああ』
ツーツー、と電話が切れる。
……まあ何はともあれ、流れ星見れてよかったかな。
★★★★★
「……なんだったの? 電話」
明里からの電話が切れ、俺、齋藤蒼戒がベランダから部屋に戻ると、双子の兄の春輝がそう尋ねて来た。
「今日は流星群なんだと。ふと思い立って電話して来たらしい」
「ふーん。ちなみにさっき願い事がどうとか聞こえたけど」
「……気のせいだろう」
願い事を聞かれて、ふと思い立ったのは『明里が笑っていられますように』だったのだが、そんなの絶対言えない。恥ずかしすぎる。
「えー、うっそだあ〜」
「本当だ」
「ええ〜、だったらお前が心なしか赤面してるのは気のせいか〜?」
「お前次何か言ったらぶった斬ってやる」
「こわっ! 鬼か!」
「鬼だが何か?」
「こいつー! 後々どーなっても知らねーかんな!」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
まあ何はともあれ流れ星が見れたのでよしとしよう、と思いつつ俺は春輝をあしらった。
(おわり)
2025.2.10.《星に願って》
2/11/2025, 4:47:07 AM