川沿いの桜並木は見事の一言につきる。両側に満開の桜が咲き誇り、川の表面は桜の花びらで敷き詰められていた。河川敷には桜とは別の春の花、チューリップやマーガレットが植えられて花開いている。色鮮やかながら喧嘩することがない。これが『春爛漫』と言うのだろうか。
桜吹雪が巻き起こり道行く人々の歓声は自然のショーに対して上げられて、花びらのシャワーで視界が桜色に染まっては、はらはらと揺れて落ちていった。
「思ったより風が強いけど、とっても綺麗…!」
パステルカラーのワンピースを着て俺の先を歩いていた君はくるりと振り返る。プリーツスカートが広がったかと思えば体に添って閉じてまるで花びらのようだ。
「昼間の桜もだけど、夜桜も綺麗だよ。桜を見ながら花見酒なんて風流だろうね?」
「それはぜひ飲んでおかないと勿体ないね。夜が待ちきれなくなっちゃう」
ちょっと気の早い君がまた背中を見せて「おつまみは何がいいかな」と呟き近くの桜を見上げていた。
風が一際強く、俺たちの髪を乱した。例えるならぶわわっと下から吹き上げられるような風だ。
「きゃ」
「…!」
君のワンピースは軽やかに見せてくれる反面素材が薄い。案の定スカートはふわりと翻り…かわいい悲鳴をあげて押さえていた。けど反応が遅かった。口笛を吹きそうになったのをこらえる。
「み、見た…?」
「見て…ないよ?」
君の視線に堪えかねて明後日に目が泳いでしまう。桜と色味が合いそうな淡い水色の下着なんて断じて見ていない。ちょっと眼福だとか、風に感謝したとかは…まぁ、あるけど。俺たちの周りに人がいなくて良かったと思っている。「似合ってるよ」と口走りそうになったがそれは帰ってから伝えるとして…。
「これなら気兼ねなく歩けるかな?」
またイタズラな風に遊ばれたら大変だと、ジャケットを君の細い腰に巻き付けた。
4/10/2023, 11:29:06 PM